地這う鬼火―序章「雨の日の追悼」―

 その日は村中どしゃ降りだった。ゴロゴロと雷が叫び、雨で舗装されていない田舎道は泥状になっていた。
 ある一本道に家が一件、ぽつんと建っていた。その家は酒屋であったが、先月その酒屋の主人が病に倒れ、急死した。今では村人が、酒屋を取り壊そうという計画を建てている。この村は酒造りが盛んなため、村には至るところに酒屋があった。小さな村では、酒屋はただただ多いだけの存在に過ぎなかった。
 一本道に建てられた酒屋は、『竹久酒造』という名前だった。その主人だった、久保田竹久が経営していたが、人付き合いが悪く、友人といえる者は一人しかいなかった。
 その竹久の友人は、竹久の死後一ヶ月後に、ついに酒屋が取り壊されることになったことを知り、酒屋へ、竹久と竹久酒造への追悼を、嵐の中で行っていた。
「ついにお前の家も壊されるらしい。集落から離れているここじゃあ、買ってくれる客なんざ、旅人かこの俺ぐらいだったな。せっかくだ、お前の家から最後に買ったこの酒、呑め。お前の作った酒だ。まだ家の中に酒があるが・・・・・・。盗らないでおこう、黄泉の土産にゃ丁度いい。」
 竹久の友人は、竹久酒造で最後に買った酒を中に撒き、花をそっと軒先に置いた。
「それじゃ・・・・・・お別れだな。」
 竹久の友人は竹久酒造に背を向け、集落のある方へ歩いていった。

ピシャァッドオオン

 近くで閃光と爆発音がした。どうやら近くに落雷したようだ。
「全く、村の連中はあいつが死んだ次の日に壊せなんて言うなんて。どうやら自然は村の連中に味方しているようだな。」
 竹久の友人はつい後ろに振り返った。近くに落雷したのだ、その驚きから反射的に振り替えってしまったのだ。
「・・・・・・なんだあれは・・・・・・。」
 竹久の友人の目に留まったのは、遠くでボウと妖しく光る、青白いものだった。その青白い物体は、だんだん竹久酒造へ近付いていた。
「う、うわあ! お、鬼火!」
 青白く光る丸い物体は、ふわふわと竹久酒造へ吸い込まれる様に入っていき・・・・・・。

ドオオン

 再び落雷したと思わせるほど巨大な爆発音がした。自分の撒いた酒と中に残されていた酒のアルコールに引火したようだ。
「なんということだ・・・・・・。」
 無情にも竹久酒造は業火の中、ゴウゴウと嘆いていた。まるでそれは、友人の前で助けを乞う断末魔のように。