地這う鬼火―第二章『地を駆ける炎』―

 武田たちは零次の所有する車で、飛露喜村へ向かった。辰之助は車は持っていないので、事務所までバスと歩きで来ていた。
「さて一ノ蔵さん、早速ですがその、依頼内容である『鬼火』について、教えて頂けますか?」
「もちろんですとも。・・・・・・、私の住む村、飛露喜村では、二種類の鬼火が現れるのです。」
「二種類?」
 横から、色黒の青年が割り込んだ。名前は牛込一郎。彼は『昔話に見立てた惨殺事件』にて武田と知り合い、上京してきたのだ。
「ええ。一つは、フワフワと空中を不規則に動く鬼火。もう一つは、規則的に地上を駆け巡る鬼火です。」
「空中と地上・・・・・・不規則と規則的・・・・・・。」
「あ、会話中のところ悪いけれど、着いたようだよ。」
 飛露喜村は、集落のあるところは綺麗に舗装されていた。しかし、見回すと辺りは田畑だらけで、なんともミスマッチな風景が広がっていた。
「町? 村?」
「・・・・・・村ですじゃ・・・・・・。」
「うお!? お、お婆ちゃん・・・・・・。」
「緑川さん・・・・・・、まだ信じていないんですか、鬼火。まあ私も『大地の鬼火』は信じてませんが・・・・・・。」
「カッ! 鬼火鬼火て、なんなんだいこの村は!! そんなに鬼火が好きなら、その大好きな鬼火で焼け死んでしまえばいいんだ!」
「・・・・・・、な、なんか凄いお婆ちゃんだね・・・・・・。」
「あ、ああ・・・・・・。」
 辰之助は、あの頑固なお婆さんの名前は緑川登代子だと言った。そして、十年前にみた鬼火について、話始めた。
「私が鬼火を初めて見たのは十年前。緑川さんを筆頭としたグループが、ここの田舎道にあった酒屋の取り壊しを希望し始めて一ヶ月経ったころです。」
「取り壊し?」
「ここに、竹久酒造っていう酒屋があったんです。でも、十年と一ヶ月前、病死しましてね。その翌日に緑川さんらが取り壊しのデモを起こしたんです。元々その酒屋の主人の竹久が、人付き合いの悪い人だったからなんだと思うんですけど・・・・・・。」
「そして、そのデモの約一ヶ月後、鬼火が?」
「ええ・・・・・・。ここで話すのもなんです、集落へ行きましょうか・・・・・・。」
 集落はたくさんの酒屋を始め、多くの店で賑わっていた。その中でも、一際賑わいを見せる酒屋があった。店の名前は、『世界の鍋島』だ。
「ハハ・・・・・・ユーモアがあるじゃないか。」
「鍋島貴雄さんが経営している酒屋だよ。ここらで一番繁盛している。外国産の酒がたくさんあるからな・・・・・・。」
「おお、辰之助の旦那!」
「結婚などしておらん。」
「そんなこと言わないで、ホラ、いい酒入って・・・・・・。」

ボウゥ

 遠くで、何か嫌な音がした。同時に、誰かの悲鳴が聞こえた。その悲鳴の内容は、聞き覚えのあるものだった。
「お、鬼火だ!」
 奥の道から、青白い小さな火が灯っているのが見えた。その小さな火は、ボウゥ、ボウゥと、断続的に燃える音を出しながら接近してくる。
「こ、この店に近づく! 鍋島さんも店から!」
「ええ、ちょ、ちょっと・・・・・・」
 全員が『世界の鍋島』から退避した瞬間、地上を駆け巡る鬼火は店の中へ、吸い込まれるようにはいっていき・・・・・・。

ドオオン

 『世界の鍋島』は大爆発を起こした。店は、辰之助にとってこう映った。十年前、竹久酒造が炎上し、嘆いたあの光景に・・・・・・。