地這う鬼火―第四章『空を飛ぶ火種』―

 地を這う鬼火を起こした張本人、出羽桜一郎は、武田の呼んだ警官によって連行された。悪意が無かった分、素直に従った。
 武田はその後も悩んでいた。目の前で発生した第一の鬼火、『地這う鬼火』を解決しても、辰之助が十年前に目撃した『空飛ぶ鬼火』は分からず仕舞いだからだった。
「一ノ蔵さん、そういえばまだお尋ねしていませんでしたね、十年前の鬼火について。」
「あ、そういえば。さっきの鬼火・・・・・・いや、ガスバーナーの火で忘れていたわい。」
 武田は手始めに、当時目撃した様子について聞いた。
「ああ、あんときは大雨、嵐だったんよ。」
「嵐?」
「ああ。雷鳴が響いていてね、会話していても聞こえないぐらいの。」
「悪天候だったんですか。」
「そう。そして、弔いの意をこめて、あんとき燃えた竹久酒造へ行ったんだ。」
「武久酒造・・・・・・とは、一体誰が経営していたのですか?」
「私の友人だった、久保田竹久だよ。」
 辰之助は竹久について語り始めた。無論、武田が聞いたわけではない。勝手に話し始めたのだ。
 久保田竹久は十年前に亡くなった『竹久酒造』の主。末期ガンだったらしいが、人付き合いが悪く結婚していなかったため、唯一の友人と呼べていた一ノ蔵だけが、その最期を看取ったという。ちなみに久保田竹久が亡くなったのは、竹久の誕生日の一ヶ月前らしい。つまり、一ノ蔵が見たあの豪雨の日は、久保田竹久の誕生日だったわけだ。一ノ蔵は元々竹久の死去後、三回忌になってから再びあの店に行き、3年間の話をしようと思っていたらしいが、店の取り壊しが決定したために変更を余儀なくされ、竹久の誕生日に行ったそうだ。その際に空飛ぶ鬼火を目撃したそうだ。
「じゃあ、あの日行かなかったら・・・・・・。」
「わしは取り壊しを志願していた集落のやつらが火を放ったと思っていたよ。」
「なるほど・・・・・・。」
 武田は次に、そのとき見た鬼火について聞いた。辰之助によると、鬼火はどちらかと言うと小さめの、青白い球体をしていたようだ。フワフワと飛び、不規則な動きをしたという。直進したかと思えば右に曲がり、その場でまわっては元の道に戻り・・・・・・。始めてみる奇妙な光を凝視してたとき、元々中が古い木で出来ていた竹久酒造の中に入り、炎上したという。
「あのときのことは、けしからんやつが取材に着たほどだったよ。」
「けしからんやつ?」
「そこの若い男と同じヤツだよ。」
 辰之助は零次を指差した。
「え、僕?」
「コンポタージュとか言っておった。」
「ルポタージュですか。」
「それだ!」
「ということは、僕と同じ、当時のルポライターだったのか・・・・・・。」
「確か、超常現象を専門に・・・・・・とかなんとか。」
「超常現象?」
 武田は眉間にしわを寄せ、厳しい声で言った。
「あ、ああ。この世には科学では解明できないことで・・・・・・いっぱい・・・・・・と・・・・・・。」
 辰之助は血の気が引いた。理由は武田の形相が怖かったからだ。
 武田は宇宙人は信じているし超能力だってあるかもしれないと思っている。しかしあくまでも科学で解決できると信じているからだ。武田が癇に障ったのは、その当時のルポライターが超常現象に対し、科学では解明できない、と言及したからだ。
「ほおー、そのルポライターには一泡吹かしてやりましょうか。十年間解明できないと言い切っていたその愚かさに、目に物を言わせてやりますよ・・・・・・。」
「・・・・・・こ、怖いよ。」